羽織るものと靴下は必須アイテムの夏の映画館
新しいものと懐かしいものいろいろ盛りだくさんに観ました
芸や絵、恋人、スケート、仕事
様々なものに情熱的に挑むその姿だけでも魅力的ですが
その先には何があるのか、はそれぞれ
人とのつながり、関係も様々でありながら
誰かといることが支えだったり励ましだったり
人間ってええなーと感じる映画ばかり
今月は以下です
- バケモン
- HOKUSAI
- シンプルな情熱
- アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル
- くれなずめ
- おくりびと
- わが母の記
- うなぎ
- 親愛なる君へ
- わたしはダフネ
バケモン
鶴瓶さんの落語を追ったドキュメンタリー
最近、俳優としても活躍の鶴瓶さん
わたしは何と言ってもコレが印象的
鶴瓶さんのための役、って感じやったし
西川美和監督作品でもあって
人間のあらゆる部分を容赦なく見せて、痛いし怖かった
落語をしている鶴瓶さんは観たことがなく
今回初めて”落語家”としての鶴瓶さん
「駱駝」という作品との向き合いを観て
当然ながら”生”で見たくなった
印象的だったのは、毎回高座の後
「あれ出てきてびっくりしたー」などと
無意識に師匠や先輩のクセや言葉が思いがけず出てくるシーン
ネタを書き留め、つなぎ合わせを
毎日毎日やって進化させてゆく話芸が
他の誰もやっていない事
その積み重ね、俳優の経験が
鶴瓶さんの落語を豊かにブラッシュアップする
鶴瓶さんって頭の中
ものすごい緻密な計算をしていたり
フル回転で動いているんやなー
笑ってはるようで、実は笑ってなかったり
当たりの良い柔らかい大阪弁やけど
怖い人でもあるなーと思った
ちなみに、この美人は誰?と思ったら
西川美和監督もチラリと出演
鑑賞特典でもらったチラシには
西川美和監督のメッセージがびっしり
HOKUSAI
葛飾北斎の娘お詠や浮世絵師たちの世界を書いた小説を
何冊か読んでいたのと田中泯さんが北斎の老年期を演じられると聞いて
観たくなった
何のために絵を描くのか?
若き日の北斎は誰かに勝つためと捉えていた
そういう心根はやっぱり絵に出るねんな
「どうだ上手いだろう」という絵に
そこを見抜かれて
なぜ自分は絵を描くのか、何を描きたいのかに苦悩する青年期
どのシーンも素晴らしく物凄いパワーで映画に引き摺り込まれた
田中泯さんは佇まい、表情、顔のしわ1本1本から
オーラが滲み出ていて圧倒された
脳卒中後の不自由な体や北斎ブルーに出会った時のシーンは圧巻
写楽役の俳優さんが、ずいぶんあっさりしてたのと
吉原一の花魁役 麻雪は出だしの女郎のようで線が細く貫禄不足に感じた

95年の映画「写楽」写楽役は真田広之氏
コレも観たくなった

シンプルな情熱
セルゲイ・ポルーニンが出るというから・・・
彼に関してはコレを観てから

彼に会う事だけが彼女の望みで
それ以外は「現実感がない」と言った感じ
わたしも覚えがある(笑)
知的な彼女なのにまるで10代の女の子のように
会えない時間すべて彼を想う感じや
約束を破られて寝込んでしまう、日常に対応できなくなる感じも
「子どもっぽい」のではなく恋とはそういうもの
8か月、彼からの連絡が途絶え、久しぶりに会い
お互いが変わったことを彼女は感じて
涙を流しながら終わりを自分で決める
この「自分で決める」ってところが良かったなぁと思う
涙を流しながら「あぁ、終わったんだな」とわかった彼女は
やっぱり大人だ
みっともなく、どうしようもなく本当の恋に溺れたから
わかったんやわ
セルゲイの冷ややかで何を考えてるのかわからない
あの感じで「会いたい」と言われ
説明できない理屈じゃない彼女の恋がわかる気がする
アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル
公開当時かなり話題になってたけど
スケート選手襲撃事件って全然興味持てず
「クルエラ」公開記念でクレイグ・グレスビー監督の前作を1週間だけ公開
「クルエラ」はスタイリッシュでおもしろかったけど
その監督の前作がこれ?と意外な感じで観てみようと思った
マーゴット・ロビーを知ったのは、これ

今、流行りの女優さんかと思ってたら!
この映画を観て、何て言うのか
トーニャって人気・実力を兼ね備えた人がするような役やと思うねん
(「クルエラ」にエマ・ストーンが出たのはすごく納得)
マーゴット・ロビーって本気の俳優さんなんや、と思った
本当にあった事件らしいけど
暴力と罵倒が当たり前の世界で育ったトーニャ
彼女の幼い日からのエピソードには胸が痛む
複雑なバックグラウンドを持ち気が強くパワフルなトーニャを
マーゴット・ロビーがまるで本人のように演じてる
母役のアリソン・ジャネイの強烈キャラも引いてしまうくらいすごい
人間が成長する過程で安らぐ関係や教育が
どれだけ重要か、痛いほどわかる映画
「わたしのせいじゃない」このセリフ、トーニャは何度口にしたやろ

くれなずめ
いつ会っても「あの時」に戻れるような友達・仲間
いいなぁ、男同士のわちゃわちゃ・・・
いや、でも なんかあるんでしょ?これだけじゃないよね?
・・・ええー!ちょっと、ど、どうなるん?と最後までグイグイ
松井大吾監督は舞台やってる人で、なんか群像劇が多いらしい
今や注目の監督さんらしく
主演の成田凌くんも「オファーが嬉しかった」と
単なる青春ものじゃなくて、ある事実が最後の方に明かされる
あ、それでアレかと納得のゆくシーンがいくつもあって
わたしが痺れたのは「ちゃんと向き合おうぜ」とクールな欽一が
明石につかみかかるところ
6人組の男たちがホンマに魅力的だったし
彼らのわちゃわちゃの底に”ちゃんとあるもの”が
いつもいつも感じられた
「くれなずめ」というタイトルが「なるほどなぁ」と
きれいなくれなずむ時間帯の空が見られます
個人的に
一瞬映ったおでん屋台の店主がまさかあの人だとは(笑)
韓国の人が日本語喋ってるんや、と思ってた
もうひとつ
主人公がずっと好きだった女の子が前田敦子さんなんやけど
薄っぺらくってどこが魅力なんか不明(ただ怒鳴ってた)
(キャスト紹介を見たらAKB48出身やって)

成田凌くんも出てるけど、これで明石役の若葉竜也くんを知った
若葉くんすごくいい!(今回の役でファンになった)

大成役の藤原季節くんはこの映画で知った
THE BOOMの宮沢さんのご子息 氷魚(ひお、と読む)さんも出てたけど
これすごく良かったの
「佐々木、イン、マイマイン」でもかなり良かったらしい
(見逃した💧)

おくりびと
チェロの音に涙が出そうになった
そのくらい胸の奥底に届く音やった
(本木くんの演奏?・・・プロの演奏だったよう)
納棺師がなんで良く言われへんのやろ
「死」を忌み嫌う文化やろかー
遺族にはあんなに感謝されるのに、同級生も妻もエライ言いよう・・・
火葬場のたくさんの人を見送ってきた人の言葉
「死は門だ」と言われた言葉が素直に腹に落ちる
今回の生を終えて次への旅立ち
残された人たちは「死」を前にして
自らを振り返り、これまでわからなかった事がスッとわかる
その静謐で美しい”心の流れ”みたいなものを納棺師は導くような感じがした
山形の豊かな自然 なだらかな鳥海山(実際に見たことある!)
川を登る鮭、雪、白鳥の群れ
冷たい空気の澄んだ感じが伝わるシーンがいくつも
山崎努さん、余貴美子さん、笹野高史さん
個性的な人たちが実にいい味出してる!
松竹映画100周年記念作品「キネマの神様」公開記念 特選DCP上映にて

わが母の記
樹木希林、役所広司、宮崎あおい…ときたら観たいわな
ちょっと苦しくなった
だんだん認知症がひどくなる母
同じ事を繰り返すぐらいなら、まだいい
自分のせいで家族が振り回されているのにエラい憎まれ口を叩く
家族って実にフクザツなもの
ひと言で言い表せない振り幅が大きい言葉と感情がグルグルする
1950年代から1970年代までの母を中心とする家族のエピソードは
観ていておかしくもあり、痛々しくもある
人間って不思議やなーと思うのは
40代ぐらいから自らのルーツの家族のことが
自分の何かに関わっている事に気づいて、そこに立ち戻る人が多い
(個人的感覚)
役所広司演じる主人公も、彼のきょうだいもそう
時代的に主人公家族(妻、娘たち、お手伝いさん)、きょうだいのそれぞれ(家族含む)
も憎まれ口を叩き、徘徊しまくる”おばあちゃん”に振り回されまくる
わたしは井上靖氏を読んだことがないが
彼は家族のこともよく書いていた?
希林さんが壊れてゆくおばあちゃんを実に軽妙にリアルに演じていた

うなぎ
「すばらしき世界」の役所広司
ブルーレイが発売された「稲村ジェーン」のヒロイン役でもある清水美砂
「楢山節考」の今村昌平監督作 1988年
役所さん、刑務所に入ってた男役は
何度も演ってはるねんやー
「好きだから許せない」・・・コレ、すごくわかるなぁ、と
刑務所に入ったから、法の解釈では…とか
やっぱり自分の気持ちとして許せないものは許せない
それが罪かどうかは、また別の話やと思ったナ
オトナになるとモノゴトって単純ちゃうねん
お互いにワケあり
そこを超えられた時はじまるんやなぁ
80年代ってバブルっていうイメージ
その頃にこの映画かぁ・・・

親愛なる君へ
静かでうつくしい台湾の映画だった
冒頭のスローなピアノにダイナミックな山の景色
この山が主人公にとって大事な場所
「この人に出会って人生が変わった」
ジエンイーにとってもリーウェイにとってもそうやったんやろうな
きれいなだけの恋愛でなく嫉妬したり相手に先立たれたり
ヨウユーはわかってる
「みんな僕を利用しようとしてる」
ま、”みんな”ではなく”叔父さん”なんやけどね
ゲイだから受ける偏見
亡きパートナーの老母や子どもの面倒を見る事に
社会に対していちいち説明がいる
「僕が女性だったら同じ質問をしますか」と言った彼の気持ち
彼はよく泣いた
ヨウユーを養子にした時、リーウェイが死んだ時
涙が出る時は泣けばええねん 彼の涙は美しかった
ジエンイー役の人がホンマに素晴らしかった
公式サイトを開けるとすぐ上がる予告編の下の「スペシャルメッセージ」を見て
彼の落ち着いた話し方やこの映画の雰囲気が伝わります
映画の感想をお喋りしています

「親愛なる君へ」と設定が似ていて、以前観て泣けた映画
こちらも音楽も役者さんも素晴らしいです、おすすめ

わたしはダフネ
自由にダンスし、みんなと楽しむダフネ
髪の色も髪型も着てるものもオシャレで
出会う人出会う人を友達にしてしまう
ダウン症の人って、顔を見たらわかる
独特の行動をとる人もいる
「わたしは泣きたいのよ!」と正直なダフネ
正直に振る舞う人って教えてくれるねん「もっと正直になったらええよ」って
悲しむけれど、いつまでも立ち止まらないダフネ
ダフネをわかっていない父親はひとり抱え込んでしまう
時にぶつかり、時に慰められ…家族ってそうやんな
ダフネが生まれた事を喜べなかった父親
それを正直に話せるって事は自分の中で整理がついてる
ダフネの成長と素晴らしさを語るシーンはジンときた
ダフネもかなり個性的で誤解をされる、とは思う
けれど彼女は強くもある
そこに彼女が歩いてきた道がなんとなく感じられる
ダフネの髪の色、とても似合ってる!
白いベレーも
似合うものを身につけてるって、自信にもなるのよね、ダフネ
今月のわたしのイチオシは「親愛なる君へ」
地味ながら家族をテーマにきれいであたたかい
今も余韻を残す映画でした
役所広司さんが出演してる映画2本
「わが母の記」は樹木希林さんの名演が素晴らしく
これまた家族がテーマですがきれいごとに留まらない
どこのお家もいろいろあるのだなぁという映画です
「おくりびと」は やはりひとこと触れておきたい
人の死をどう捉えるか、死を目の前にした人間模様
納棺師という仕事など、死は特別だけど自然なこと
チェロの音と美しい山形の自然と合わさって心に残ります