寄り添いわかり合おうとする「EUREKA」「ぼくの歌が聴こえたら」「スープとイデオロギー」「ベイビー・ブローカー」*2022年6月に観た映画

「トップガン マーヴェリック」がえらい話題になっていますが

観たいような、どうでもええような(笑)

誰もが傷を抱えて生きている

これを忘れたらあかんな

自分の傷がどんなに深くて痛くても

自分の傷が癒えるのは

人とこころを通わせる経験を重ねる事なんちゃうやろか

今月は以下を観ました

  • やがて海へと届く(日)
  • ホーリー・モーターズ(仏・独)
  • 君を想い、バスに乗る(英)
  • ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行(英)
  • EUREKA ユリイカ(日)
  • ぼくの歌が聴こえたら(韓)
  • さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について(独)
  • スープとイデオロギー(韓・日)
  • 彼女たちの革命前夜(英)
  • ベイビー・ブローカー(韓?)

やがて海へと届く

「静かな雨」の中川龍太郎監督作と知って観に行った

オープニングと最後の方のアニメーションが

詩的な感じでいい雰囲気を醸し出していた

真奈の職場の描き方が中途半端で

楢原さんが自殺した事が活かし切れていないのが残念

おそらく、すみれの事を受け入れるための一つの出来事

やったんやろうけど・・・

セリフを極力抑えて表情で観せているのだけど

主演の2人がやや力不足で

脇を固める人たちの方が素晴らしかった

(中嶋朋子さん、さすが。新谷ゆづみさん、ビデオに向かって話しているシーンは

一般の人かと思った。実体験のようだった。)

「ビデオに残されていた秘密」とあらすじにあるが

え?どれが秘密ですか?って感じだった

回想シーンのような描き方で「秘密」っぽくなかった

真奈がすみれを、すみれが真奈を特別な友達と感じて

親友になるプロセスの描き方が不足しているんちゃうかな?

期待した程、物語に入れず、感動も今ひとつでした

海のシーン、特に上からの俯瞰の海が

ものすごく印象的かつ美しかった!

やがて海へと届く 公式サイト

彩瀬まるさんという作家さんは初めて知った

岸井ゆきのさんはこれでブレイクしたん違ったかな

中身が空っぽの女の子役で共感などひとかけらもできなかった(笑)

ホーリー・モーターズ

「アネット」のレオス・カラックス監督が

カンヌで大きな評価を受けたらしい?映画

「アネット」への流れがわかる、とのおすすめコメントを見て鑑賞

不思議な展開ながら観客をガッチリ掴むパワーがあった

ワタシの解釈:”アポ”は撮影現場

あの男はいろんな役を毎日こなしている

=人は生きる上で何らかの役を演じている

よくわからない映画を観た時は

「頭で観てる」と判断し、「自由に感じる」モードに切り替える

「こう観る」と解説するメディアはたくさんあるけど

正解はない、と思う

で、いろんな映画のオマージュが入っている

というのだけ、観る前に知っていて

わかったのはひとつだけ(笑)「美女と野獣」

感想を書く前にググって出てきたのがコレ

なるほどなぁ、監督が見た夢

それにしても主人公役の人、凄かった

(調べてみたら「ガガーリン」に出てた人や!)

ワタシ、洋楽に弱いので今さら…ですが

「この人がカイリー・ミノーグなんや」とびっくりした

歌を披露しています(突如ミュージカルに)

ホーリー・モーターズ Wikipedia

予告編

君を想い、バスに乗る

スコットランドからイギリスの最果てランズエンドまで

90代の男性がひとり、バスで旅をする

見飽きる事のない景色が素晴らしかった

ティモシー・スポールは好きな俳優さん

実際は60代だそう

歩き方や身のこなし、言葉少ななところ…高齢者を見事に演じてた

バスを乗り継ぎ乗り継ぎ、嫌な思いもするし怪我もする

これを日本でやったら「ええ話の押し付け」「お涙頂戴」になるやろな

それがあっさりしていて、変にトムをいい人に祭り上げない

若い頃のトムとメアリーの断片が今につながってゆく

そのバランスが良く、単なる思い出をなぞる旅ではない事を窺わせる

トムは先を急ぐ その理由がやがてわかる

今の時代に則し、様々な人種とすれちがう

彼に手を差し伸べるのは、むしろそういう人達

ヘイトの場面で、トムは偶然出会った母子を庇って引き下がらない

整備工だったトム、その経験が活きる場面も度々あるが

家族が今の彼を奮い立たせている

年を重ねると、一番衰えるのは気力ではないかとワタシは思う

体はついてこないのに、トムの目的に向かう意志の強さよ

イギリスのインディーズ映画で

「ファーザー」「スーパーノヴァ 」に続く興行収入だったそう

品のあるうつくしい映画だった

君を想い、バスに乗る 公式サイト

これ、見逃したんやけどティモシーの代表的な作品みたい

機会があれば観たい

これは観た!歴史的事実を捏造する側の弁護士で

めっちゃイヤな奴役

ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行

      

北アイルランドはベルファスト出身のマーク・カズンズ監督

ベルファスト…今、キテますね、熱い街なのかな

(先月だったか観ためっちゃ良かった映画「ベルファスト」)

いろんな映画を様々な角度から解説したり

分類してるドキュメンタリーなんやけど

受賞の有無とか、俳優が有名かどうかとか、ヒットしたかとか

そういうの関係なし!ってところが実に気持ち良い

知らない映画もたくさんあったし

どの国の映画も同じ扱いでアメリカ・ヨーロッパに偏ってへんかった

ちなみに日本映画は是枝監督の「万引き家族」

黒澤監督の「七人の侍」(映画タイトルは記憶曖昧、違う映画だったかも)

小津安二郎監督の「東京物語」が取り上げられた

女優 香川京子さんも

日本映画の最も優れた作品に出演したと紹介され

若い頃と少し前の写真がスクリーンに!(素晴らしい★)

サイトを観ていたら、監督が相当の日本贔屓

3時間近い作品ですが

世界の広さ深さを改めて教えてくれるものでした

ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行 公式サイト

EUREKA ユリイカ

目の前で人が殺されたり、親が出て行ったり死んだり

そんな経験を続け様にした上に、マスコミに追いかけられたら

誰だっておかしくなるだろう

田舎町で何もかもがすぐ噂になる環境、大家族で暮らす息苦しさ

役所広司さんがものすごい存在感

セピア色の画面でショッキングな場面も

直接は見せない感じで進むが

バスジャックの犯人の普通なようで狂ってる感じとか

乗客の恐怖とかがジンジン伝わる

先日亡くなられた青山監督が2001年に撮り

カンヌで高い評価を得て、国内上映でも大きな反響を呼んだ作品らしく

今回デジタルリマスター版が上映された

去年だったか”松竹映画100年”?で観た「わが母の記」で

役所さんと宮崎あおいさんの共演があったが

この映画が初めてだったのだろうか

宮崎あおいさん演じる”こずえ”が痛々しい

実際の兄である宮崎将演じる直樹の内にこもった狂気

持て余す感じ、不器用さを

まだ幼さを残したふたりが必死で演じている

ロードムービーで阿蘇の広大な景色の中

中古のマイクロバスで旅をしている

懐かしい大観峰や俵山、阿蘇独特の景色・・・

(ツーリングで行きました)

やっぱり人は大自然に癒される

海で沢井が自分を取り戻したように

こずえも海で再生をしたようだった

ラストシーンの希望と絶望な感じ、沢井の大きな愛がいつまでも残る

EUREKA ユリイカ Wikipedia

ぼくの歌が聴こえたら

横顔がキムタクに似ているチフンと

サザンの桑田さんをもっと3枚目にしていい人っぽくした感じのミンス

音楽ロードムービーで初っ端から大音量でビリー・アイリッシュがかかる

痛みや傷を抱えた者同士が心を通わせるまでが

時間をかけて丁寧に描かれるし

韓国のいろんな街や名所が見られた

チフン役の男子が韓国で有名らしいEXOの一員で

アイドルのような甘いマスク

ギターも鍵盤もドラムもボーカルもできるからすごい

ロマのギターまで弾いてはったので

かなりの腕前なんやと思う

この発想はなかった!と驚かされたのは

ドラムセットが20台ぐらい並んで一斉に全員で出す音は

お腹に来るし見た目も圧倒された

盲目のシンガー・ナナさんも印象的やったなー

自ら出るんだ、やるんだとそういう気持ちになるまで

信じて待つ

本人もつらいけど、待つ側もつらいし度量が試されてる

チフンが韓国のいろんな街でいろんなステージを経験するが

ワタシは昭和歌謡風の衣装でCMソングを歌ったヤツ

あれが一番好き

ぼくの歌が聴こえるまで 公式サイト

さよならベルリン またはファビアンの選択について

「飛ぶ教室」のケストナーが書いた大人向けの唯一の長編小説

90年前のものだとか

時代はいやな流れが来ていてナチスが台頭する前

白黒の当時の映像だとか街のポスター

退廃的なムード漂う盛り場

現実世界となんだか混迷を極めるスクリーン

第一次世界大戦?に出兵しトラウマを持つ主人公

彼の目から見た世界、出来事が

うんざりするけど、そうやろうなーとなんだかわかる気がした

いやな気配は徐々に現れているものの

まだ自由があるベルリン

でも そうやってじわじわ自由が狭められる恐怖を感じた

ファビアンという人は

差別される人や危ない事をする子どもを放って置けなくて

お母さんに優しくジェントルマン

え!これで終わるんですか!という斬新な感じ

そこに人の命の儚さとあの後のえげつない時代を知らずに

死んで行くのが、ある意味しあわせかも

かなり抽象的で疲れる長さですが

ドイツという国の底抜けのあれこれ

人間の複雑さなどなど、やっぱり違う匂いがして

うーむと腕組みする感じ

さよなら、ベルリン あるいはファビアンの選択について 公式サイト

スープとイデオロギー

「かぞくのくに」のヤン・ヨンヒ監督作

オモニのなんとも言えないいい表情がチラシに

娘であるヤン・ヨンヒ監督のお母さま

そして52歳で結婚された監督が

朝鮮の民族衣装での結婚記念写真撮影の日のオモニのお顔やった

ワタシは何も知らなかった

朝鮮がなぜ北と南に分断されたのか

済州 4・3事件のこと(韓国現代史上最大のタブーなんや)

ヤン監督は在日コリアン

在日のご両親の元、日本で生まれ育った

在日の人たちが韓国籍か北朝鮮籍かは家や親族によるものではなく

政治的な思想で選ぶものなんやそう(これも知らなかった)

なぜ ご両親は北を信奉し、ヤン監督含め3人の息子たちも

北の考えで教育を受け、兄たちを北朝鮮に送ったのか?(”帰国事業”)

これがこのドキュメンタリーのkey

「スープとイデオロギー」この不思議なタイトル

スープは参鶏湯を指していて

映画の中でオモニの手や監督の夫の手で何度も作られ

アボジが亡くなった今、3人で囲む食卓

ちなみに監督の夫となった人は日本人

生前のアボジはヤン監督に

「日本人とアメリカ人は許さん」「韓国人もダメ」と

紹介したいエピソードはいくつもあるが

ぜひ、この映画を観て欲しい

済州4・3事件で18歳のオモニが目撃・体験した事を知り

慰霊祭に家族で足を運んだ監督は

事件の凄まじさに打ちのめされ

オモニやアボジの北への信奉がなぜなのか初めて腑に落ちる

ぼろぼろ泣きながら本心を語る監督の後ろ

席を立った夫さんが背中をさする 

認知症がかなり進行したオモニが監督の手をぽんぽんと優しく叩く

歴史に翻弄され北に裏切られたも同然のオモニ(アボジもやけど)

恐怖と悲しみの記憶をどんどん無くしてゆく

心の中で憎み、義務感でオモニの元を訪れていた監督は

やがてオモニを本当の意味で理解し愛と感謝を抱く

また、監督の夫さんがオモニを大事に思い

優しいのだ・・・

大阪で暮らすオモニは「大阪のおばちゃん」で

監督も大阪で育ってこられたので ユーモアたっぷり

何度も笑えたし、泣けたなーーー

10人に満たない観客やったけど、みんな、すぐに席を立てなかった

エンドロールの最後、真っ暗なスクリーンに波の音がした

分断された南と北?お兄さんたちがいる北と日本?を現すのかなー

スープとイデオロギー 公式サイト

夫でありエクゼクティブ・プロデューサーのカオルさんへのインタビュー

(これ、おもしろかった)

*監督とカオルさんは年の差も大きく生まれた国も違う

2人を映画で観て、おとなの男女のいい関係がめっちゃええなぁと思った

監督を演じたのが安藤サクラさん

北朝鮮から一時帰国した兄役を井浦新さん

これ、観た なんとも哀しい感情を覚えている

監督の家族の確執を描いたドキュメンタリー

これも観たいな

(監督の夫さん、30回は観たらしい…)

北朝鮮の兄の子、ソナちゃん

「スープと…」の中にもソナちゃんの名前が出てくる

彼女たちの革命前夜

「ルッキズム」という言葉を最近知った

(興味のある人は調べてみてね)

ミス・〇〇は、そーいう事で女性同士を競わせる

キーラ・ナイトレイのファンで彼女が出る作品は

なかなか良いってのもあって、今回も観に行った

1970年、イギリス 実話を基にした話

(”実話”と書くと「すべて真実」と受け取る人がいますが

エンターテイメントになってる以上、それはないと思います)

おもしろいな、と思ったのは

ミス・ユニバースの出場者の視点が入っていたり

差別に憤るシングルマザーの母親による「女の敵は女」的な茶々が入ったり

主催者の妻、イベントに呼ばれたコメディアンの妻など

様々な立場や考え、年代の女性の生の声が入っていた事

つまり「女性の差別はこんな頃からあって今も変わってへんやん」

で終わってへんのよね

あとびっくりしたのが、1970年という今から50年以上前に

南アフリカやグラナダなどの代表が出場しただけでなく

人数が絞られても残り、王者になったのも白人ではなかった事

(人種差別の声は上がっていて、その世論に配慮した?)

南アフリカ代表の女性が、体験する様々を

「夢のようだ」と目を輝かせる

故郷では工場に勤め、政治的な目的で近づく人と接触を持つなと

約束させられて出てきたと告白するシーンがある

共産圏ならいざ知らず

いやアパルトヘイト下なら、そうなのか?

事実を基にしているので

あのシングルマザー、グラナダ代表、南ア代表、過激な彼女の

今の姿がスクリーンに

皆、それぞれに年を重ね誇り高くうつくしい

その人らしく生きているええお顔

なかなか素晴らしい映画でした

彼女たちの革命前夜 公式サイト

*ひとつ、苦言を:公式サイトのキャスト紹介をもっと丁寧にしてほしい

印象的な役の人はもっといた。群像劇なのに扱いがおかしい。

ベイビー・ブローカー

「生まれてきて良かった」と思った事はない

「生きていて良かった」と思った事はある

たぶん、「生まれてくる」事を当たり前だと思っているワタシ…

「生まれて来てくれてありがとう」

あのシーンは良かったなー

サンヒョンもドンスも少年もそれぞれの心への響き方

(韓国の俳優さんのレベルの高さを感じた全編)

男2人は胡散臭い感じがぷんぷんしてたけど

ソヨンが加わり孤児の少年が加わり

チームというか家族っぽい雰囲気ができてゆく

あのなんとも言えない空気感は「万引き家族」的でもあった

みんな傷を抱えていて、それが変化する

彼らを追いかける刑事ですら(彼女の傷は明らかではないが)

あの感じが「わかるなぁ」やし「こうあって欲しいな」でもあった

ラストが良かった

ウソンが「みんなの子ども」になっていた

ホンマは世界中の子どもみんなを「社会の宝物」として

みんなで慈しみ育てなあかんのやけど

数年経って彼らは再会したのだろうな、と

観客の想像に任せて

かつての彼らの写真だけを見せる

「空気人形」のペ・ドゥナさんも年を重ねて

いつの間にか彼らに寄り添い、ひとりの女性として生きる役を

いきいきと人間らしく、とても素晴らしかった

カンヌで主演男優賞を獲得したソン・ガンホさんは

すべてが自然、ユーモラスでありながら鋭い感受性で

最後のセリフなどびっくりさせられる

そして眼鏡をかけて、ボタン付けやミシンがけを披露してはる

ドンス役のカン・ドンウォンさん

傷ついた大人、でも優しい大きなこころ

ウソンを抱っこしているシーンが多くて

洗車機の中のシーンでソヨンとウソンを庇っていたの

ワタシ、ちゃんと観てましたからね

ベイビー・ブローカー 公式サイト

家族や子どもをずっとテーマにしてはる

いつも社会的な視点がある是枝監督はやっぱり特別

ソン・ガンホさん始め、監督や韓国映画を

世界中に知らせた映画

ソン・ガンホさんと言えば、ワタシこれも忘れられない

もう1回観たい

観た時びっくりしたけど

今思うと是枝監督らしいなと思う

ペ・ドゥナさんの涙が今も胸に落ちてくるよう

「スープとイデオロギー」は例によって

町山さんのラジオで絶賛されていて観に行った

観た後、2度聞き直したのだけど

町山さんがヤン・ヨンヒ監督(女性)を揶揄するような物言いをしていて

それが不愉快だった

歴史的や政治的な話をタブーなく話す町山さんのファンだが

女性に対する認識はおかしい

また、この映画 SNSで感想を書くと…というプレゼント企画があって

ちょっと書いてみたら、なんか世界が広がった感

1本の映画からリープル・リングのように

他者(家族や友達含めて)とわかり合うって

時に時間もかかり面倒で大変やけど

「あなたをわかりたい」と思っている人は大切にしたい

何があろうと意見がちがっても

あなたを否定しないよ、家族だよ、友達だよ、という姿勢は

今、全世界のワタシら ひとりひとりに求められてる

うん、そんな気がする