濃ゆい・噛み締める「ザ・ホエール」「ディア・ピョンヤン」「怪物」*2023年6月に観た映画

毎月、観た映画をこうしてまとめる時

タイトルに何を挙げて何故これを選んだんやろう?と考える

共通点を見い出したり、印象的な映画を思い返したりする

今月はひときわ濃ゆかった…気がする

どれも話題作

でもひとつひとつは遠い世界の話ではなく

ワタシの日常に潜むひとつだったりする

以前、観た「エブエブ」のように

ワタシは親に捨てられた子どもだったかもしれない

複雑な歴史的背景で他国に日本人として暮らしていたかもしれない

大卒で雑用にこき使われる女性だったかもしれない

映画って、そういう擬似体験をする

自分に引きつけて考えたり想像する

「ワタシだったらどうしたやろ?」

今月は以下

  • ザ・ホエール(米)
  • TAR(米)
  • WOMEN TALKING 私たちの選択(米?)
  • ディア・ピョンヤン(日?)
  • カード・カウンター(米)
  • 愛しのソナ(日?)
  • 怪物(日)
  • 告白、あるいは完全な弁護(韓)
  • アシスタント(米)
  • To Leslie(米)

ザ・ホエール

愛し愛される事に、誰かの”許し”はいらんやろ

ーあのおかしな宗教の聖書の考え方に大きく違和感

神さまは異性愛しか認めないなんて…それはニセモノの神や

人を追い詰めるような宗教は、そもそもおかしい

話題作、アカデミー主演男優賞…

監督は「レスラー」「ブラックスワン」の過去作を持つ

と聞いて、納得するものがあった

「レスラー」で目を背けたほどに”絶望”を描き

今作では”絶望”はあっても同時に存在している”希望”を描いてる

あの状況にあるチャーリーが「人間は素晴らしい」と言う

リズの存在が不思議で、リズとチャーリーの関係が良くて

後半でようやく納得するのやけど・・・

彼の巨体にもたれる安心したリズ

彼を放っておけないリズ

あの宗教男が気持ち悪かった

「あなたを救いたい」って、あんた自身がまず自分を救えやって話やわ

しかも「救える」と思ってるところが、高慢や

”ホエール”は重要なモチーフ「白鯨」かつ彼の巨体

見た目をぼろくそに言われたり、それだけで人の態度が変わる

「おぞましい」状態を自分で作り傷ついている

投げやりかと思えば、自分の命や健康状態を気にしたり

リズやエリーに「すまない」を繰り返す

食べているシーンも「美味しい」と喜びを感じていない食べ方で

見ていられない醜さだった

彼が捨てた元妻と娘が出てくる

確かに彼がした事は許されないし

現状の2人を見ていて彼の責任を感じる

でも、でもや

心から愛する人と出会い、そこに飛び込まずにはいられなかった

←それを誰が責められるやろ?

責めて良いのは元妻と娘だけ

それに彼は欲しいものを得て、それに値する大きな代償も払った

偽りを生きるか?それは幸せなのか?

良い悪い、こっちが正しいという話ではないのよ

複雑なのだ、人間って

ザ・ホエール 公式サイト (予告編いろいろ種類あり。メイキングVrをぜひ)

TAR

1回観て、情報もちょっと入れて、もう一回

やっぱりあの決定的な場面のターの形相は

恐ろしすぎて、ケイトの底知れなさを感じる

ずば抜けた聴力が夜の冷蔵庫の音まで拾う

悲鳴やノック、どこまでが現実でどこまでが幻聴なのか

オルガの奔放な振る舞いの数々

ターに対してまるで敬意を感じない

でも、ステージで彼女の顔に触れるシーンは

やっぱりちょっと、どうでしょ?

類稀なる才能があるだけに

最高の名誉や名声を得ただけに

転落は見ていられないレベルで

ターの肩を持つつもりはないし

むしろ傲慢な人への感情はよーーーく知ってるけど

上手に振る舞うターが、やがてすべて裏目に出る姿は穏やかに見られない

あぁ、きっとターの両方がワタシにあるんやろ(恐)

そう、この映画は観る人の内側を暴く

だから不穏でゾワゾワして落ち着かへんのよ

あれは何?とビクビクした感じになるねん

やましいところがあるから(笑)

いやーーー、しかし

この役はホンマにケイト・ブランシェットしかできひんナ

それは自信を持って言える

外出先や他所のテレビから「ピンポーン」と聞こえる度に

ターのお隣や彼女がピアノでその音を再現するシーンを思い出す

TAR 公式サイト

WOMEN TALKING 私たちの選択

2010年?

ー女性が文字を読み書きできないとか

何の選択肢もないとか、あり得へん・・・・

やっぱり南米か・・・

そこでの05〜09年に起こった事が小説になり、これが映画に

まだ少女が、未婚の女性が同じ村の男に・・・とか

結婚しても夫の暴力や夫が他者へのレイプ・・・とか

望まぬ妊娠で得た子どもが当たり前・・・とか

いや、それおかしいやん

女たちの体内から流れた血が度々出てくる

会話劇

全員、傷ついている

「ノマドランド」のフランシス・マクドーマンド

ブラピ(彼はすごいね)→出演でなく制作に関わる

現代をも皮肉るほぼ女性だけが構成する映画

母、娘、孫

神さまはこの地獄をなぜ助けてくれへんの?

(宗教に限界がある、でも彼女たちの心の支え)

愛って、どんなもの?

どうあるべき?

彼女たちは、しあわせなの?

まだ幼さを残した女の子たちの勇気

男性すべてが”敵”ではない事

アクションを起こす勇気と困難

こんな映画がつくられ

奴隷状態の女性がひとりでも救われると良いな

そやけど、やっぱり黙って現状に従っているのは

自分のこの”生”を放棄しているんやなー

WOMEN TALKING 私たちの選択 公式サイト

ディア・ピョンヤン

去年だっけ?めっちゃ良かった「スープとイデオロギー」の

ヤン・ヨンヒ監督の3部作上映

「ディア…」の後「愛しきソナ」で「スープ…」の順になる

家族もの、と一口に言うのはあまりに乱暴

複雑な歴史的背景に翻弄された在日コリアンのヨンヒ監督

彼女の葛藤を思うと胸が詰まるのやけど

この映画を観て

ほぼほぼ”大阪のおっちゃん”アボジの愛すべきキャラ

激怒してる時はカメラ回せへんわな、そりゃ

でも父娘の漫才のようなシーンに笑ったり

微笑ましくて「うふふ」やった

日本に暮らすコリアンに「北か南か選べ」ってさ

朝鮮半島にいる人たちだけちごて、日本にいる人にまで”分断”を持ち込むやん

北の独特な思想に塗れた教育を受けヨンヒ監督は大人になる

しかも両親はバリバリの北の思想の活動家

そんな環境で兄や両親、ヨンヒ監督…家族すべてが翻弄され

引き裂かれてしまって・・・

ヨンヒ監督は”自分の家族”をテーマに映画を撮り始める

まぁ、それぞれどう感じるかは自由

ワタシは自由が利かなくなったアボジに

「思想は違うけどアボジとオモニの子どもに生まれてしあわせ」と

アボジの手を握り語ったヨンヒ監督の言葉とアボジのリアクションに泣けた

アボジやオモニの活動家的思想に違和感を感じるヨンヒ監督

自由な空気や経験をたくさんして

家族と疎遠になって、また家族に戻って来ざるを得ない状況

・・・めっちゃわかる!

親として娘の幸せを願う複雑な父の心境に

食らいつく娘とカメラ

「愛しのソナ」観に行こう

アボジ、心配無用ですよ

ヨンヒ監督、ええ人と結ばれます

オモニ、ちゃんと見届けて大事なバトンをヨンヒ監督に渡しますよ

この映画ができた段階でアボジ生きてはったんかー

お隣の国の事やし関係ない?

なんでこんなにたくさん在日コリアンがいはるのか知ってます?

戦争の影響が今もこんなにある事、わかりますか?

ディア・ピョンヤン ヤン・ヨンヒ監督三部作 公式サイト

カード・カウンター

彼は被害者なのかと思った

加害側で、責任者は逃げ切ったが証拠が残って罰せられた

彼は今も悪夢にうなされる…

モーテルの全ての家具に白い布を巻きつけるあれは・・・

真っ当な仕事につかず流れるように生きているのは・・・

目立たないように「小さく勝つ」そして引き際が潔い

復讐しようと考える若者に言い聞かせるシーンは

かつて彼はこういう事をしていたんやな

どうやったら人を恐怖や絶望に陥れられるのか、よく知っていたんや

若者は従うかに見えて、復讐に走った

でも、捨て身でズルさはなく

若者の憎しみの強さ、絶望の深さを感じた

カードゲームの雰囲気

カジノってこんなのか!

普通の人がゲームに興じる様子

オスカー・アイザックのクールで何も寄せつけないオーラ

ひたすら過去に向き合っていたんやなぁ

若者を誘って同行させたのはひとつの”償い”やったんや

上官の命令は絶対の軍隊の異常さ

様々な暴力のプロとも言えるな

苦しむ彼はちゃんと人間性を持っているって事やな

カード・カウンター 公式サイト

愛しのソナ

「ディア・ピョンヤン」の続編ドキュメンタリー

ヤン・ヨンヒ監督の北朝鮮にいる兄の子ども←監督にとって姪っ子

男の子ばかりの中、女の子はソナだけ

かわいいソナが監督を「伯母さん」と慕う様子

さぞかし可愛くてたまらないやろうなぁ

その背後にピョンヤンでの彼らの暮らしの特殊さに絶句する

電気が供給されるのは日中の数時間だけ、とか

道路は広くほとんど車が走っていなくて閑散とした感じの街

物もお金も厳しくて日本からの仕送りでやっと生活している有様

ぶっちゃけ、どんな思想でも構わない

その国に暮らす人々が幸せで満足しているなら

十分に食べられないのに国家主席?を崇め奉る行事が最優先される気持ちわるさ

ソナが成長し、当時ニューヨークで暮らす伯母の話を

想像もできず聞いていて(情報が入ってこないからね)

それでもそんな話を聞けるソナは恵まれている、と言うか豊かなんや

最近目にしたSNSに「モノが言えなくなるのが怖いんじゃなくて

情報が入ってこない事が一番怖い」とミャンマー のご友人が言ってる、ってヤツ

情報がなければ、自分が実際に触れている世界が全てになってしまう

それは「簡単に絶望する」と言えるんかもな

別のラジオでヤン監督が「ディア・ピョンヤン」を撮った事で

北朝鮮の兄たち家族がどうなるやろうって、それがものすご怖かったって

朝鮮総連幹部だった父が兄たちを北朝鮮に送ったのは「間違いやったかも」みたいな発言をして

それを撮ったのも、家族を危険に晒すことになったんちゃうか、と話してはるのを

戦慄して聞いた

今、自分が暮らす日本の事を知って考える事が1番やけど

世界がどうなっているか?アジアで何が起こってるか?

世界につながる日本で暮らす外国人の人たちの事とか

そーいう事も決して「他人事」では、あらへんのよ

そーいう事が見えてくるドキュメンタリー

ヤン・ヨンヒ監督の3部作 笑えて泣ける人間くささもいっぱい

愛しきソナ含むヤン・ヨンヒ監督三部作 公式サイト

怪 物

カンヌで脚本の坂元裕二さんが受賞

先日亡くなられた教授 坂本龍一氏が音楽

(何これ?サカモトづいてる!)

エンディングで客席が静まりかえり誰ひとり席を立たない

「坂本龍一」のテロップに

そうや、教授や 音楽しはったん

いろんな人の視点からこの出来事が描かれる

「怪物」が誰なのか 「怪物」とは一体何なのか

それを問うて明らかにせー、明らかにせーとやってるのが今の日本社会

そこ、ちゃうし!っていう映画です

その立場から見たり聞いたりできる事って

こんなにも事実の一部で

大人への階段を登りつつある彼らの”本当”は

なかなか見えてこうへん、つかめへん

まだ幼い彼らは、どう自分を生きたら良いのか

周りの目や自分の本心や心配する親の気持ちやらでぐっちゃぐちゃ

その葛藤をミナトとヨリが繊細できらきらと教えてくれる

ふたりが例のゲームをした時

「それは星川依里くんですか?」とミナトが鋭いひとことを発するシーン

ヨリがいつものフツーの表情ながら固まった

あの繊細さに触れて

特別なひとのこころからの声に

ヨリくんは「このままではあかんのんか」と

身に染みてわかったやろ

あの嵐の後「何も変わってないよ」と冷静に見てるふたり

現実は厳しいけどこころは通った!

あの躍動的で美しい最後のシーンはバツっと突然終わりエンドロール

これからも彼らのゆく道は険しいやろ

でも、出会ったんや この人は特別やとわかったんや

あぁ、やっぱり美しい

怪物 公式サイト

  

告白、あるいは完璧な弁護

韓国映画のレベルに毎度毎度、驚く

金曜の夜にぴったりのハラハラ、ドキドキ

映画にのめり込み、最後まで「あ、まだ何かある」という

ぐいぐい引っ張る力に持って行かれた

男の口から語られた事件と弁護士が語る事件

ひとつの場面がいくつもの解釈と見えなかった事実を浮かび上がらせる

緊迫感、本当は何があったのか、この男は一体?

一番、ハラハラしたのは彼女があの男性の携帯をポケットに入れ

父親が電話をかけ、バイブに気づく場面

彼女は思いもしなかった事実を知る→ここがまた大事な伏線

最後まで「え?」「え?」「え?」と新たな事実が出てきて

「どっひゃー」の連続

やっぱり目の前の本人から

語られる言葉や表情で判断してしまうから

人にはいろんな面があり、ひと言で語れないのが人間だと言い聞かせる

いい人、わるい人、とざっくり捉えがちやけど

そんな単純なもんちゃう

自分を見てもそう思ふ

凄腕の弁護士が冤罪をひっくり返す、ように見えて

事実はもっと複雑で人間のダークな部分が動かしてる

告白、あるいは完璧な弁護 公式サイト

アシスタント

”こうやって女性は黙らされてきた”のサンプルだらけ

夜中に出勤!?ーどうやら早朝 そしてボスが「帰っていい」と言うまでが”仕事”

1番に出勤して1番最後に帰る・・・

おそらく秘書室の一員で他に同年代の男性2人がいるのに

彼女だけ応接コーナーの片付けや水を冷蔵庫に冷やしたり

給湯室の洗い物をしている

そしてボスのランチだけでなく

彼らのランチまでオーダーしてデスクまで届けている

…もう挙げればキリがない”女性だから”あるあるの連続

これが”ある1日”と言うから驚きやわ

彼女どんだけ働いてんねん

台詞は少なく淡々と細々と彼女の仕事が描写される

映画関係の会社らしく、彼女はプロデューサー志望

学歴も能力も高いのに「無能」呼ばわりされたり

「お前などすぐ辞めさせる事もできる」「お前のポジションの募集をかければ400人が来る」

など、あ、これが現実よね〜と妙に納得(肯定しているのではなくリアルだと感じる)

エンドロールの最後に

「実体験を語ってくれた多くの女性たちに…」だったか

全部覚えていないが字幕が出た

優秀な娘に期待していて良い会社に就職できたと

思い込んでいる両親←これがまた厄介なのだよ

「これはおかしい」と動いた彼女を

封じ込めるネタがドミノが倒れるように押し寄せて

こうやって飲み込めないものを飲み込まされる=なぜNoと言えないのか?と言う現実

ワタシもさ、「小娘ごときが」的場面や

「女はめんどくさい」

仕事中なのに「おばさん」とか「おばあちゃん」とか←もう本当に許し難い

アシスタント 公式サイト←コメント欄が素晴らしいので是非

To Leslie

いやーーー、見ていられへん

アル中の凄まじさは知っているものの怖いなー

息子くんの冷静な目と優しさと複雑さ

善悪も恥も外聞もない、あの淺ましさはまさに”病気”

個人の努力でどうなるもんでもない

本気になるきっかけって、なんやろう

人やケースによるんやろうけど

レスリーの場合、息子くんの存在は絶対やけど

あの夜、過去の幸せな時を思い出したから…やね

レスリー役のアンドレア・ライズボローは

アカデミーの主演女優賞にノミネートされていて

今年のアカデミーで噂が入ってきたのは「ザ・ホエール」「エブエブ」とコレ

ひとつ残念だったのはスウィーニーとの関係

ああなるより”近い隣人”ぐらいでとどめておいて欲しかった

”愛”ってもっと広くて大きくない?

何度もレスリーがアルコールを目の前に葛藤する

でもラスト近いバーのシーンでは飲みたいワケじゃない

惰性であり逃げ場なんやな、って思った

”今”ってとこではどうやろ?

どこの国でもアル中になってしまうのは多いようだし

世界的に様々な問題があって病気のきっかけになってるから

”今”が活きていると言えるかなあ

To Leslie 公式サイト

今月は以前観た「スープとイデオロギー」のヤン・ヨンヒ監督の

ドキュメンタリー三部作(前記作品含む)がリマスタリングを終え

特別上映された

お隣の国のこと、どれだけ知ってる?

今、韓国映画やドラマはめちゃくちゃ面白いから話題やけど

ついこないだまで韓国が軍事独裁政権やったん知ってる?

”在日”コリアンの人たちのこと、どれだけ知ってる?

ーなんて聞くワタシは学校の授業では近代史など記憶に残ってへん

映画でたくさん学んだ

機会があれば、ぜひ

まずは「スープとイデオロギー」から(取っつきやすいと思います)

それで止めてもよし、ですが

チャーミングなアボジの様子は見て欲しいなぁ

愛の物語に泣けます